「まったくもって平和です。ああ、ご不在の間に、他国からいくつか書状が届いております。返戻を急ぐ物もございますので、お疲れかと思いますが、一度お目通しを」


普段、国の外交政策の指揮官を務めるニールの報告に、国王も黙って頷いた。
二人の王女がドレスの裾を持ち上げ、頭を下げるのを見遣った後、国王は直立不動の姿勢で控えているセドリックの前に進む。


「セドリック」

「お帰りなさいませ。父上」


声をかけられたセドリックが、国王に敬礼した。


「後で私の公務室に来るように。話がある」

「……はい」


国王の命令に、セドリックは短い返事の後、再び敬礼する。
国王が再び馬車に乗り込み、遠征軍が城門の中に進んでいくのを見て、セドリックはわずかに目を伏せ小さな溜め息をついた。


帰城早々の国王の話――。
正直なところ、その内容は聞かずともわかる。
もちろん、彼の妃の話でしかない。
国王の出立前にも、セドリックはうんざりするほど聞かされた。


重い気分を払うかのように、セドリックは濃紺のマントを翻し、騎士団の方に歩を向けた。
愛馬の手綱を騎士から受け取り、鐙に足を掛け颯爽と鞍に跨る。
手綱を引いて華麗に方向転換すると、遠征軍の後を追うように城門内に進んでいく。