「昨夜はすまない。余計な仕事強いて」


『仮面の姫君』の捜索は明け方まで続いた。
夜が明け空が白み、セドリックは無念の表情で騎士団に下した命を解いたが、その後彼がどうしたのかは、ライアンにもわからない。


アデルはセドリックに背を向けたまま、黙って待機場に足を踏み出した。
それを見て、セドリックが声をかける。


「アデル。身体が空いてるなら、稽古の相手してくれないかな? 久々に勝負したい」


セドリックの言葉に、アデルの肩が震えるのを、ライアンは目にした。
ここは兄として止めなければ、と、近付いてくる彼の前に一歩踏み出し、行く手を阻む。


「セディ、悪いがアデルは疲れてるから」

「え?」

「本調子じゃない。これ以上剣を振るえば、事故になる」


ライアンとセドリックのやり取りの間に、アデルは再び歩を進めていた。


「あ、ちょっと、アデル……!」

「セディ。相手なら俺がするから」


ライアンを回り込み、セドリックはアデルを追おうとする。
ライアンは身体をずらして立ちはだかった。


「っ、ライアン……?」


アデルは待機場に入っていく。
その背を見送り、セドリックは怪訝な表情で肩を竦めた。