「な、なにが求婚よ。ふざけてるわ」


泣きそうに目を潤ませて言い捨てるアデルに、ライアンも小さな溜め息をつく。


「ひゃ、百歩譲って求婚だったとしても、あれは私に向けられたものじゃないわ。だって……セディは私だってこれっぽっちも気付いてなかったんだから」


ムキになって言い募るアデルに、ライアンも心の中で『そうだよな』と呟いた。


昨夜、ドレス姿で現れたアデルは、兄の自分が見ても一瞬誰だかわからないほど美しかった。
仮面で顔を隠さずとも、おそらくセドリックにはわからなかったんじゃないかとも思うほどだった。


だからこそ、昨夜のアデルを見たらセドリックがどんな顔をするか……そこを想像して、わずかながら面白がってしまった自分を、今はとても申し訳ないと思っていた。
ライアンがアデルに仮面を貸したりしなければ、こんなこじれた事態にもならなかったのだから。


セドリックは、顔も名前も知らぬまま、アデルに『一目惚れをした』と告げたのだ。
言われたアデルにしては、堪ったものではないだろう。


しかも、アデルが逃げ出した後、セドリックは騎士団に彼女の捜索を命令した。