セドリックの誕生パーティーの翌朝――。
訓練場の端で見習い騎士たちの稽古を眺めながら、ライアンは妹のアデルを気にしていた。


彼女もいつも通りチェインメイルを装備して、ロングソードを手にしている。
剣を交わす相手はアデルより年上だが、腕前で言えば、わざわざ見守る必要もない。
彼女の敵にもならない相手だ。
しかし……。


「あっ……!!」


アデル自身が発した声に、ライアンも反射的に一歩足を踏み出した。
アデルの右手から、大きく剣が弾かれる。
カランと音を立てて剣が地面に落ちるのを、アデルだけでなく相手の騎士も呆然と見つめていた。


「っ……ありがとうございました」


一瞬悔し気な表情を浮かべたものの、アデルはすぐに相手に向き合い、礼儀正しく頭を下げた。
勝ったはずの男性騎士の方が、戸惑って返事もできずにいる。


アデルは黙って頭を上げると、地面に落ちた剣を拾い上げた。
そして、唇を噛み締め俯いたまま、訓練場から下がってくる。


訓練とは言え、アデルが負けるのを久しぶりに見た。
兄として、ライアンも放っておけない。


「アデル」


待機場に引き上げようとする妹に、ライアンは声をかけた。