「お願いです。このフレイア王国の次期王妃に……僕の妃になってください。どうか、仮面を外してお顔を見せていただけませんか。僕は……」

「む、無理です!!」


自分に向けられるセドリックの愛の言葉も、『フレイア王国の王妃』という言葉も、ただただアデルには畏れ多すぎて、簡単に頷けるものではなかった。
そして、彼女を混乱させたのは、それだけではない。


(私がアデルだって気付きもしないくせに、そんなこと言われたって……!!)


アデルは悲鳴のように叫んで返事をしながら、自分の手を包み込むセドリックの手を、ぶんと縦に揺らして振り解いた。


「あ、姫っ……」

「お、お邪魔しました、失礼します!!」


アデルの頭の中は、大パニックで混乱し切っていた。
とにかく、一刻も早くセドリックの前から逃げ出して姿を消さねばならない。
ただその一心で、アデルはセドリックの胸を両手で思い切り突き飛ばし、広間に続く窓に向かって足を踏み出した。


「姫っ!!」


セドリックの声が背を追ってくる。
自分に伸ばされる彼の腕から必死に逃げ出し、アデルは転がるように広間に走り込んだ。


「姫っ、せめて名前を……姫っ!!」


転がるように逃げ出すアデルの背を、セドリックが必死に呼び止める。
軽やかなダンスが続いていた広間にセドリックの叫びが響き渡り、パーティーは一瞬にして騒然とした。