ライアンの背を見送ってから、アデルはずっと柱の陰に隠れて立っていた。
ライアンが戻ってくるまで、それほど時間がかかったわけではないが、ドアを開けて広間に入ってきた兄を見て、アデルはホッと胸を撫で下ろした。
彼の手に約束の仮面があるのを見て、アデルは小走りで近寄っていく。


「お兄様!」

「アデル、お待たせ。……ってお前、なんて顔してるんだ」


本当に泣きそうな妹に苦笑して、ライアンはアデルに仮面を手渡した。


「ほら。このパーティーじゃ却って目立つかもしれないけど、とにかくお前だって気付かれたくないなら、顔隠すしかないだろ?」


ライアンに促され、アデルは急いで仮面を顔に着けた。
ライアンの仮面は目元と鼻先までしっかり覆い尽くすデザインだった。
アデルにはやや大きいが、顔は仮面にしっかりと隠される。
ライアンの目に映るのは、彼女の可憐な口元だけだ。


「目を伏せていれば、瞳の色もわからない。後はお前がセディに近付かなければ一晩のパーティーを乗り切るくらいのことはできるだろ」


そう言って微笑むライアンに、アデルは大きく頷いた。


「お兄様、ありがとう」


お礼を言って、仮面の下で顔を少し綻ばせた、その時。


「ライアン」


アデルの背後から、ライアンを呼ぶ声がした。
その声に、ライアンもアデルもビクンと肩を震わせる。