「いや……なんでもないよ」


『もしもセディがアデルのこの姿を見たら……』と、幼なじみの王子の反応を想像しながら、ライアンはアデルの肩を軽く叩いた。


「わかったよ。とにかく、アデル。お前はできる限り広間の端っこに引っ込んでろ。姫君たちの集団から逃げ続けていれば、セディに近寄れるはずがないから」

「う、うん。それはもちろん。でも……」

「ちょっと待ってろ。この間セディのお忍びに付き添って、仮面舞踏会に行ったんだ。その時使った仮面が俺の部屋にあるから、あれで……」


ライアンの言葉を聞いて、アデルはわずかに眉を寄せた。
そして、どこか呆れた様子でライアンを睨みつける。


「お兄様、セディとそんなところで遊んでるの?」

「そんなとこって……お前が考えてるようないかがわしいとこじゃないぞ」


ライアンは、アデルの不信げな濃い緑の瞳から逃げるように視線を逸らし、彼女に背を向けた。
「持ってくるから待ってろ」とアデルに言い置くと、ライアンは広間を出て階下にある騎士団の宿舎に向かっていった。