「アデル、お前……」

「お兄様、お願い、助けて!!」


顎に手を当てしげしげと自分を見下ろすライアンに、アデルは両手の指を組み合わせて懇願した。
彼女の言葉に、ライアンは訝しげに『助ける?』と聞き返す。
アデルは辺りにサッとに視線を走らせると、兄の腕を両腕で抱き締め、大広間の隅っこに向かってグイグイと引っ張り出した。


「あ、おい」


妹に腕を引かれ、ライアンは華やぐホールを気にしながら歩を進める。
太い柱の陰に隠れると、彼はアデルの腕をそっと解いた。
ドレスの裾を気にしてアデルが手で捌くのを横目に、ライアンはヒョイッと肩を竦める。


「……で?」

「セディに見つかりたくないの!」


短い言葉で促されたアデルが、急いたように一歩踏み出しながら叫んだ。


それを聞いて、ライアンは何度も瞬きを繰り返した。
そして柱の陰から広間に視線を走らせる。
アデルの言うセドリックの姿を、反射的に探していたのだ。


二人が身を潜めている柱から離れた広間の中央部分に、豪華で華やかなドレスを着た姫君たちが群がっている。
このパーティーの趣旨から言って、その中央部分でセドリックが取り囲まれていると思って間違いない。