そう、パーティーの準備は万端だった。
しかし、明らかにいつもと違う。
アデルが不審に思った通り、華やかなドレスで着飾った姫君が、やはりどこにも見当たらないからだ。


狐につままれた気分で、アデルはそっと足を踏み出す。


(これは……どういうこと?)


疑問に答えてくれる人を探し、アデルは魔王の城に侵入する不心得者のような気分で、おっかなびっくり歩を進めた。
そんな彼女の耳に、聞き慣れた声が届く。


「アデル!?」


背後から聞こえた声に足を止め、アデルは勢いよく振り返った。
目と口を大きく開いたライアンが、大股で弾むように駆け寄ってくるのが視界に映る。


「お兄様」


異次元にでも迷い込んだような、得体の知れない不安が払拭されるのを感じ、アデルはホッと胸を撫で下ろした。
しかし、目の前で足を止めたライアンは、ガシッと両肩を掴んでくる。


「アデル! お前、いったい……」

「お兄様。ねえ、セディはどこ? 招待された姫君たちは? ねえ、どうしてこんなに静かなの?」


アデルはライアンの声を遮り、肩を掴まれたまま再び辺りを見回した。
しかしライアンは、アデルの質問を右から左に聞き流す。