パーティー当日の夜。
アデルは自室で騎士の正装服を身に着け、大きく深呼吸してから廊下に出た。


宿舎内の他の部屋は静まり返り、物音は聞こえてこない。
見習いの少年たちを除き、今夜はほとんどの騎士がパーティーの警護の任に当たっているからだ。
アデルはセドリックに一番近い位置の配置の為、彼が広間に現れる時間に合わせて任に就けばいい。
おかげで、少し出遅れた形で宿舎を出た。


石造りの主塔に入り、小走りで階段を上りながら、アデルは肌で感じる違和感に首を傾げた。
他の騎士も召使いたちも、既に配置についている。
主塔の門先での出迎えも警備も、通常のパーティーの時と寸分変わらない。


塔内の廊下や階段を行き交う、召使いたちの忙しない様子も、いつものことだ。
王太子が妃を選ぶ、大事なパーティー開始直前。
どこか緊張感を孕みながらも、浮き立つような空気が漂っている。


しかし――。
アデルは三階に続く階段の中腹で足を止め、そっと辺りを見回した。


まだパーティーが始まる時間ではない。
とは言え、やけに静かだ。
アデルの視界の中で行き交うのは、普段から城に仕える人たちばかりで、豪華なドレスに身を包んだ姫君たちの姿が、どこにも見当たらないからだ。