(明日はちゃんと騎士団の一員として、警備に就かなきゃ)


セドリックが自分に与えてくれた任務だ。居場所だ。
アデルはそこから逃げるわけにはいかない。


主君の命は絶対だ。
心を揺らしながら臨んではいけない。
そんな覚悟を決めて、アデルはその場に立ち上がった。
軽く衣服の埃を叩き、まだ座っているライアンを肩越しに見下ろす。


「そうだ、お兄様。今日の最後に、お手合わせお願いできないかしら?」


アデルの笑顔の挑戦に、ライアンは上目遣いで彼女を見つめてから何度か黙って頷いた。


「いいよ。一日の最後になって、へばりそうだけどな」


そう言いながら続いて立ち上がるライアンを、アデルは隣からそっと見上げた。
そして、深々と一度頭を下げる。


「お兄様、お願いします」


礼儀正しくお手合わせを願い出るアデルに、ライアンはわずかに戸惑いを見せた。
しかしすぐに「ああ」と頷き、彼女の美しいプラチナブロンドの髪をわしわしと掻き回すように頭を撫でる。


「よし。最後に一戦交えて、一汗流そう」


そう言って先に訓練場に歩いて行くライアンの背中を見つめ、アデルは一瞬鼻の奥の方がツンとするのを感じた。
しかし一度啜り上げて気を取り直す。
彼女はすぐに、先を行く兄の後を小走りで追いかけた。