その手を借りて掴まりながら、ガクガクする足に必死に力を込める。
アデルはよろけながら立ち上がった。


「あ、ありがとうございます……」


掠れる声でそれだけ言うと、アデルは医師に深く頭を下げた。
顔を上げたアデルの肩を、医師がポンと叩く。


「二十四時間体制で看護人がつきます。命に別状はないと言っても、重傷ですから。傷口から菌が入ったりしたら、一気に命取りになります」

「は、はい……」

「ですが……アデル様が殿下の怪我に責任を感じておられるのなら、できるだけ殿下を見舞ってください」


そう言われて、アデルは戸惑いながら顔を上げた。
口ひげを蓄えた医師が、目を細めて彼女を見下ろしている。


「でも、私は……」


セドリックのそばにいていいんだろうか。
そんな思いで躊躇うアデルに、医師は優しく微笑んだ。


「殿下は治療中も、あなたのお名前を呼んでいらしたんですよ。『アデルは無事か、どこにいる?』と」

「えっ……?」


思いがけない言葉に、アデルの胸はドキンと大きく跳ね上がった。
そのまま頬が熱を持ち、赤く染まるのが自分でもわかるほどだった。


アデルの反応に医師は更に相好を崩し、彼女の背をトンと押す。
押された勢いで、アデルはセドリックの部屋のドアの前に一歩躍り出ていた。