(セディは、道を逸れるなって言ったのに。私はそれを聞かないで、勝手に森の奥に踏み込んで……)


あの時アデルの心を占めていたのは、セドリックに認めさせたいという意地だった。
そこには、今思えば、自分自身への劣等意識もあった。


ドレスを着て顔を隠したアデルに、セドリックは『一目惚れした』と言った。
彼はアデルの前で、ドレスを着た『アデル』への恋心を吐露した。


いつも近くにいたのに、あんな顔をするのを見たことがない。
本当は、ドレスを着た自分に言ったのと同じ言葉を、普段の自分にも言ってほしかった。


しかしセドリックは、アデルのことは『女らしくない』と意地悪に言い放つ。
そんなことを言われたら、アデルはセドリックの前で騎士の姿でしかいられない。
しかし、今のアデルは騎士としても半人前で、セドリックは本気で相手にしてくれない。


早く一人前にならなきゃ。
とにかく今日の務めを完璧に終わらせる……それで頭がいっぱいだったのだ。


草むらに獲物ではない牝鹿を見つけた時、『捕まえたら武勲を挙げられる』と思った。
アデルはその一心で、彼の制止を振り切り獲物を追ったのだ。


(それなのに、セディにこんな大怪我をさせてしまうなんて……)


どんなに謝っても謝り切れない。