セドリックが腰につけていた角笛を使い、アデルはすぐに助けを求めた。
駆けつけた騎士団の手により、セドリックは即刻城の自室に運び込まれた。
すぐに数人の医師と薬師が召集されたが、陽が高くなっても治療はまだ続いている。


アデルは城の主塔の五階の廊下で、閉ざされたドアに目を凝らしたまま、そこから一歩も動けず立ち尽くしていた。
体幹から込み上げるこむら返りのような震えが、先ほどからまったく治まらない。
止めどなく流れていた涙は涸れてしまったのか、頬がパリッと乾き、強張る感覚が残っていた。


少し前に、アデルたちから遅れて城に戻ってきたライアンが、セドリックの容体を聞いてくれた。


『重傷だが、命に別状はないとの見解だそうだ。……アデル、お前が気に病むことはない。狩猟ではよくある事故だ。とにかくお前に怪我がなくてよかった』


ライアンはそう言ってアデルの肩を軽く叩くと、事故の状況を確認する為に、騎士団を引き連れ、再度森に戻っていった。
再び一人になったアデルの心は、張り裂けそうだった。


セドリックもライアンも、『怪我がなくてよかった』と言ってくれる。
しかし、自分は二人にそんなに大事にしてもらっていい人間ではない。
アデルは深い慙愧の念に押し潰されそうだった。