真下から見上げていると、アデルが空を背負っているようだった。
とにかく彼女が無事だったことに、セドリックは心の底から安堵する。


「セディっ……」


返事をしないセドリックに焦れたように、アデルが振り絞るような声をあげた。
顔を横に振ったせいか、その美しいエメラルド色の瞳から零れる涙が、セドリックの顔に降ってくる。


朦朧とする意識の中で、セドリックはそれを『神秘の滴だ』と思っていた。
彼は重くなっていく目蓋を必死に開けてアデルの瞳を見つめ、無意識に動かした右手でその頬をそっと撫でた。


「アデル……君は? 怪我は……?」


セドリックは自分の口で訊ねかけながら、その声がやけに掠れて不明瞭に聞こえることに気付いていた。
しかしアデルにはちゃんと届いたようで、彼女が大きく首を横に振る。


「わ、私はっ……セディが助けてくれたから、どこも怪我なんて……」

「……そっか。よかった……」


彼女の返事に大きく胸を上下させて息を吐いた時、そこに激痛が走って、セドリックは苦痛に大きく顔を歪めた。
そして、


「セディ!? セディ!」


とアデルが自分を呼ぶ声が頭の中で木霊するのを聞きながら、目蓋の重みに抗えず、そっと目を閉じた。