アデルの馬を止めることができなければ、彼女は馬ごと崖から真っ逆さまに落ちてしまう。
最悪の想像に、セドリックのこめかみを、ツーッと一筋冷たい汗が伝った。


「アデルっ……顔を上げろっ」


猛烈なスピードで駆け抜ける馬の背で、セドリック自身もその振動に耐えながら、アデルの馬に半馬身まで接近した。


更に鞭を振り、暴れ馬の尻尾に手が届く距離まで詰める。
セドリックはアデルを自分の馬に引っ張り込もうとしていた。
しかし肝心のアデルは、恐怖も極限なのか、馬の背でぐったりしてしまっている。
今にも馬から振り落とされそうだ。


「アデル! しっかりしろ……!!」


アデルの意識が朦朧としているようでは、全力疾走する馬から馬へ移動させるなど、到底無理な話だ。
彼女の腕を引いたが最後、二人とも一気に落馬するのが目に見えている。


しかし、迷っている暇はもうなかった。
木々の密集具合が和らぎ、セドリックは、自分の視界が突如真っ白に輝いたように思えた。
次の瞬間、彼の記憶通り視界がパアッと開け、丘の頂に着いたことがわかる。


(くそっ……もうダメだ、間に合わない……!)


頭の中に絶望が過った瞬間、セドリックの馬がアデルの馬にほぼ並んだ。
それを見て彼は手綱を手放し、馬上のアデル目がけて飛び込んだ。