アシュレー侯爵家は、現フレイア国王の従兄弟に当たる一族だ。
貴族の中でも王家に次ぐ由緒正しい家柄で、当主である侯爵は、代々国王軍の騎士団長を務めている。


アデル・ブリジット・アシュレーは、そんなアシュレー侯爵家の一人娘……立派な侯爵令嬢だ。
五歳年上の兄、ライアン・エイルマー・アシュレーは、彼より一つ年下の第二王子、セドリック・ローランド・フォン・フレイアとは幼なじみ。
アデルも父やライアンの後について、幼い頃から城に出入りしていた。


セドリックには二人の姉と妾腹の兄、三人の弟と妹がいるが、いずれも年が離れている。
幼少時にはアデルと年の近い女児がいなかった為、城に来ても、彼女には遊び相手がいなかった。
城でできることと言えば、少し年上のライアンとセドリックが、父から剣の稽古を受けるのを眺めて過ごすこと、それだけだったと言っていい。


女の子らしい遊びがしたくても、兄も王子もアデルに付き合ってはくれない。
二人の仲間に入れてもらうには、自分も剣術を覚えるのが一番だったから、同じ年頃の女児がリボンやら人形やらに夢中だった頃、アデルはおもちゃのダガーやレイピアを手にしていた。


ライアンとセドリックを相手にナイフや剣を振り回した。
体格で勝てなくてもすばしっこさが武器になることを覚えると、彼らに勝てるようにもなった。