そう言ってアデルの背中に落ちた長い髪に触れながら、彼が意地悪にからかったことを。


「そんな、あんまりよ、お父様っ……!」


これでは、セドリックの冗談を真に受けたようにしか見えないだろう。
アデル自身がそう思うのだから、セドリックからしたらいい笑いものだ。


(この格好を見られたら、絶対に笑われる。『所詮アデルも女だから、騎士なんて無理かな』なあんて、バカにするに決まってる……!)


剣術なら、アデルはセドリックと互角に戦える。
だからこそ、こんな格好を見せたくない。
見られたくない。


ところが、騎士道精神を重んじる頑固な父は、娘の懇願をあっさりと退けた。


「アデル、反論は許さない。これは父として上司として、お前への命令だ。いいか? とにかく、セドリック王太子のお目に留まるんだ。このフレイア王国の未来は、お前のその美貌で更に輝かしいものになるのだ」

「え……」


アデルには父が何を言っているのかまったく理解不能だったが、『国の為』と言われてしまうと、国を守る騎士団の一員として、言い返すこともできない。


不本意ながら、アデルはそれ以上の文句を口にすることができず、グッと言葉を飲み込んだ。