彼女の視線を背に受けながら、セドリックは軽く手を振り再び歩を進めていく。


「セ、セディ!」

「供に就くつもりなら、途中で逃げられちゃ困るよ。ちゃんと覚悟して臨んで」

「っ……」


皮肉気に付け加えられ、アデルもグッと黙り込んだ。
回廊に戻っていくセドリックの背中を見送るアデルの心は複雑だった。


(迷いって。私が何を迷ってると言うのよ)


もちろん、そういう悔しさが半分以上を占めている。
しかし、アデルの鼓動はセドリックのその言葉に嫌な音を立てて飛び跳ねていた。


騎士として一生生きる覚悟があるか。
侯爵令嬢として約束された女の幸せを追い求めることなく、セドリックのそばで、一生。


セドリックは、今、アデルがその人生の岐路で揺れていることを、見抜いていた。
アデル自身でさえも説明できない微妙な心の揺れ。
だからこそ、アデルに意地悪な選択肢を与えて、その心を試したのだ。
それがわかるから、アデルもああ答えるしかなかった。


しかし――。


「一生、セディのそばで仕える騎士に……」


セドリックのそばということは、もちろん彼の妃もそこにいる。
そのそばで、一生……。


アデルの唇から漏れた独り言には、自分でもはっきりとわかる迷いが滲んでいた。