しかしアデルは狩猟が苦手だった。
色々な意味合いがある大事な行事とは言え、その行為は殺生でしかない。


猟犬に獲物を追わせ、追い詰めたところで一槍で仕留める。
男勝りとは言え、アデルはその残酷な光景を見ていられず、今まで自分から狩猟のお供に志願したことはなかった。


狩猟隊の編成に組み込まれることはあっても、見学する王妃や王女の乗った馬車の護衛に就いたり、猟犬係や勢子など、直接仕留める主君のそばから離れる任務に進んで回っていた。
もちろん、アデルが怖がって逃げていることは、ライアンや他の騎士たちにも周知の事実だ。
『そんなところはアデルも女らしいな』などと笑われて悔しい思いをしながらも、アデルは狩猟で主君に就く役目を徹底して避けていた。


それは、セドリックも知っているはず。
今まで何も言ったことがなかったのに、どうして今になって、と思う気持ちはある。
しかし、アデルは黙ってゴクッと唾をのんだ。


アデルの反応を見て、セドリックは伏し目がちに彼女にそっと手を伸ばす。
反射的に身を強張らせるアデルを見つめ、セドリックは彼女の長い髪をそっと揺らした。


「もちろん、無理ならいい」


そう言う彼の指先が、わずかにアデルの首筋を掠めた。