セドリックの言葉を聞いて、アデルは思わず息をのんだ。
彼が本気で言っているのは、自分を見上げるその瞳からも感じられる。


セドリックは地面に片手をつき、アデルの前でサッと立ち上がった。
衣服の埃を手で叩きながら、言葉を続ける。


「狩りの供は、騎士の任務の一つだから。本気で騎士になるつもりなら、アデルにいつまでも逃げ回られては困る」


セドリックは言葉の途中から腕組みをしていた。
大きく胸を反らしているから、彼が王太子としてアデルに命令しているのは感じられる。


一カ月に一度、満ちた月が地上に月光を注ぎ、宵闇の濃さが和らぐ夜。
夜明けから、男性王族による狩猟が行われる。


獲物を食用にする為だけではない。
様々な野生の動物が生息する森に入り獲物を追う間、もちろん人間たちも危険に晒されることになる為、狩猟は男たちにとっては武運の見せ所。
勇気試しの位置付けもあり、男性にとっては娯楽の一つと言っていい恒例行事だ。


夏が近いこの季節は鹿が肥える時期で、獲物はもっぱら鹿になる。
狩猟の獲物として鹿は最も高貴なもので、フレイア王国では鹿狩りは王族のみに許された特権だ。
だから他のどの狩猟よりも盛り上がるし、騎士たちの中でもお供を志願する者が多い。
王家の鹿狩りと言えば、半分お祭りに近い行事なのだ。