碧眼の王太子は騎士団長の娘に恋い焦がれる

「アデル、どこか痛いところは?」


そう心配するセドリックの顔を、アデルは真っすぐ見ることができない。
耳まで真っ赤にしながら、必死に首を横に振った。


「し、下敷きにしちゃってごめんなさい」


訓練場にそよぐ風に乗って、この場から消え去りたい思いを必死に抑え、アデルはどこかぶっきら棒にそれだけ謝った。
セドリックからは、『うん』と短い声が返ってくる。


セドリックはあまりにも飄々としていて、アデル一人が鼓動を加速させていた。
あり得ないほど密着してしまったことを、自分だけが意識しているのが悔しくて、アデルはついそっぽを向いてしまう。


「で、でもセディ。さっきの言い方は、いくらなんでも失礼だわ」


わかりやすいほど声を上擦らせながら唇を尖らせると、セドリックが「え?」と聞き返してくる。


「レ、レディに対して『重い』だなんて。たとえ本当のことでも、紳士が淑女に言っていい言葉じゃないわ」


拗ねた様子で呟くアデルの横顔を見つめ、セドリックはきょとんと目を丸くしていた。
次の瞬間プッと吹き出し、彼は肩を揺らして笑い出す。


「クックックッ……」

「な、何がおかしいのよっ!」


あまりにも愉快げなセドリックの笑い声に憤慨して、アデルは真っ赤に染まった頬を膨らませた。