碧眼の王太子は騎士団長の娘に恋い焦がれる

グイグイと押し迫ってくるクレアから逃げようと、アデルは必死に背を仰け反らせていた。


「あ、痕?……って」


アデルには相変わらずクレアが何を疑っているのか見当もつかない。


「まったく……ライアンやセディと仲がいいから、こういうことは私よりもずっと詳しいんじゃないかと思っていたのに。逆にまったく知らないなんて……」


再び顔を上げて、呆れた顔で「腑抜けな男たちね」とブツブツと呟くクレアに焦れて、今度はアデルの方から彼女に近寄った。


「クレア様っ! もったいぶらずに教えてください。わ、私は何をされたんですか!?」


半分泣きそうににじり寄るアデルに、クレアは一瞬目を丸くしてから、口元を手で隠してクスクスと笑い出した。
アデルにはますます意味がわからない。


クレアは、『私の方に耳を貸して』とアデルを小さく手招きした。
言われた通り耳を傾けたアデルに、クレアはコソッと内緒話をする。


「これはね、アデル。殿方があなたに残した『愛の印』よ」

「……え?」


耳打ちされた聞き慣れない言葉に、アデルは何度も瞬きをする。


「男の所有欲の表れとでもいうかしら。肌に口付けてね、吸い上げるとこういう赤い痕が残るのよ」

「く、口付けて、吸う……?」