困り果てたアデルの表情を見て、クレアは不審気に眉を寄せた。
そして、アデルの両肩に手を置き、こうべを垂れて溜め息を放った。


「つまりアデル……あなた、自分が殿方に何をされたのか、その意味も行為もわからないってことなのね」

「と、殿方に、ですか?」

「色恋沙汰も無縁だし……。でも、アデル。あなただっていいお年頃なんだから。こういうことは知識として知っておくべきよ。恋をすると女の身に降りかかるアレコレに関しては」

「こ、恋っ!? ですか……?」


クレアの口からポンポンと零れ出る言葉は、どれも普段のアデルにはまったく縁遠いものだった。


しかし、クレアの言う『恋をすると女の身に降りかかるアレコレ』は、アデルもまったく知らないわけではない。
昨夜セドリックにされた激しい口付けも、その一つだと言うことくらいわかっている。


そして、そんなことを思い出したせいで、クレアの冷やかすような視線に晒されたまま、アデルはボッと顔を火照らせてしまう。
それを見て、クレアは更に面白そうにアデルの顔を覗き込んできた。


「あらら? その反応……まったく無知ってわけでもなさそうね?」

「ク、クレア様っ!? ち、違います! 私、恋なんてっ」

「いくらなんでも、あなたの首筋に痕を残せるほどなら、もちろんアデルの『イイ人』なんでしょう?」