アデルはクレアにニッコリ笑いかけ、今度は軽く頭を下げた。
ところがゆっくり顔を上げてみると、どうしたことか、クレアは大きく丸めた目で自分を見ていて、パチパチと瞬きをし始める。


「あ、あの。クレア様?」


しかもクレアはジーッと音が出そうなほど、アデルを凝視している。
何かおかしなところでもあるのだろうか、と不安になり、アデルは自分の身をそっと見下ろした。
すると、


「ねえ、アデル」


と、クレアがアデルの腕をそそっと掴む。
力は弱いがクッと引っ張られ、アデルは彼女の方に一歩踏み出した。


「ちょっと見せてごらんなさい。……あらあらまあまあ!」


何事かと戸惑うアデルの首筋を、クレアが覗き込んでいる。
クレアが背を起こして真っすぐ立つのを待ち、彼女が見ていた位置に、アデルは落ち着かない気分で手を当てた。


「あ、あの。クレア様、何か……?」


問いかけた声には、自分でもわかるくらい不安が滲み出ている。


「アデル、それ。……首筋の痕」

「え? ああ、これは……」


手の平の下には、昨夜の虫刺されの痕があるはずだ。
昨夜も今朝も、セドリックが届けさせてくれた薬をしっかり塗ってきた。
悪化しているはずはないが、赤みが増しているのだろうか。