「セディ。俺は一応お前の為に言ってるんだが? 例の姫君……この中にいないだろう?」


ニールがセドリックに向けた質問に、国王も反応を見据えている。
セドリックは肩を竦めて、「さあ?」とだけ呟いた。


「いるにしてもいないにしても、どちらでも構いませんよ」


セドリックは国王の執務机を回り込み、薄い笑みを浮かべてニールに正面から対峙した。


「招待客が減ろうが増えようが、入れ替わろうが……僕が選ぶのは結局一人ですから」

「……何?」


ニールには、セドリックが何を考えているのかまったく読めない。
眉をひそめ、セドリックを探るように見遣る。


しかし、セドリックはそれ以上は何も言わず、きゅっと唇を引き結ぶ。
そしてニールの横をスッと通り過ぎた。


「枢密院会議が終わったのであれば、交替してください、兄上。僕は剣の訓練に行ってきます。身体を動かしたい」


セドリックの声色は淡々としながら明るく張りがあり、その真意を隠してしまう。
ニールは訝し気な視線を向けた。


「セディ」


公務室のドアに向かうセドリックの背に、ニールが声をかける。
ドアに手をかけると、セドリックはわずかに振り返り、口角を上げて微笑んだ。


「兄上。どちらにしても、余計な気遣いは結構ですよ」


ニールのきょとんとした視線を受けて、セドリックは国王に黙礼する。
それ以上は何も言わずに、彼は公務室から出た。