温室で虫に刺されたんだろうか。
確かにそこが赤くなっているのが、アデルも自分で確認できた。


触ってみても腫れている感じはない。
痛くもなければ痒くもない。


「……このくらい、なんでもないのに。大袈裟なんだから」


『痕に残るといけない』というセドリックの言葉を思い出しながら呟くと、自分でも戸惑うくらい胸がきゅんと疼いた。
夜が更ける前に届けられたということは、セドリックは帰ってきてすぐ薬師に作らせてくれたんだろう。


「全然大丈夫なのに……私なんかの為に……」


『私の為』だなどと、自惚れだとわかっていながら、アデルの心はドキドキと加速し、どこか軽く弾んでしまう。
アデルは薬の容器を両手で包み込み、その場にしゃがみ込んだ。


『大袈裟だ』と思いながら、心配されたことが嬉しいなんてどうかしている。
そんな思いで、アデルは自分の身体をギュッと強く抱き締めた。
そうしてみると、身体や髪からバラの香りが匂い立つような気がした。


誕生パーティーでセドリックのマントを羽織った時と同じように、彼に包み込まれているような気分になる。
甘酸っぱい想いが胸に広がり、アデルはそんな自分に戸惑うばかりだった。