セドリックは明るく別れを告げてくれたが、それもアデルを気遣ってくれたからだ。
あんな口付けをされたら、彼をとても深く傷つけてしまったことを痛感する。


家に戻って来ても、セドリックへの罪悪感でいっぱいだった。
次に会った時どんな顔でどんな風に話せばいいだろう……と、アデルはずっと思い悩んでいた。
なのに。


「あんなあっさり、『仕方ない』って。すごく考えた私はなんだったのよ」


アデルは顔から両手を離し、頬を膨らませて呟いた。


「セ、セディがそれでいいって言うなら。私だってそれで……」


自分でも、誰に向かって言っているんだ、と思う。
しかし、心に抑えたままでは、自分ばかりが囚われてしまいそうだ。
口に出して霧散させてしまわないと、やり切れなかったのだ。


(セディはあんな短い間で、私への恋をすっかり終わらせていたって言うのに)


アデルは頬を膨らませたまま、唇まで尖らせ立ち上がった。


とにかくこれで元通りだ。
明日からも、騎士を目指して精進することだけ考えていればいい。


アデルは自分にそう言い聞かせ、部屋の奥にある箪笥の方にゆっくりと歩き出した。
中にはセドリックの緋色のマントが吊るしてある。
アデルは軽くマントを揺らして手に取り、顔に近付けた。