だと言うのに、先に『さようなら』と言ったのはセドリックだった。
アデルから言うつもりだったのに、言えなかった。


それをセドリックから言われて、傷ついている自分がよくわからない。
アデル自身がセドリックと訣別したわけではないというのに。


『さようなら』ではない。
明日になればいつも通り顔を合わせて挨拶するし、訓練場で剣を交わす。
きっと彼はこれまでと変わらずアデルをからかい、意地悪なことを言っては怒らせ、そして最後は魅惑的に微笑むだろう。


彼の誕生パーティー以前と同じ、変わらない日常は明日も明後日も続く。
なのに、寂しいと思ったのはなぜだろう。


説明できない葛藤を心に抱え、それでもアデルは、セドリックが言ったのと同じ別れの言葉を返したはずだ。
『さようなら』と――。


(なのに……セディがあんな口付けをするから……)


心の中で彼を詰りながら、アデルの心はきゅんと疼いてしまう。


最初の時はただ突然でドキドキするだけだったが、『もう一度だけ』と触れた最後の口付けは、呼吸も胸も何もかもが苦しく切なかった。
重ね合わせた唇から、セドリックの熱い想いが流れ込んできて、アデルの身体を震わせた。