碧眼の王太子は騎士団長の娘に恋い焦がれる

しかしライアンは黙って目を伏せ、疑問を払拭するように、小さく首を横に振った。


淡泊すぎるとは言え、セドリックの割り切りは王太子として当然のことだ。
ライアンも王国軍騎士として、王太子がいつまでもアデルを想い、他の妃を選べずにいるのは困る。
だからアデルを説得して、セドリックに会ってもらったのだ。
そして今夜、何はともあれ、セドリックはアデルへの求婚を諦めた。
これでいい、と納得するより他にない。


恋に破れたのはセドリックだ。
その彼が『仕方ない』としか言わないのなら、そっとしておけばいい。
ライアンは乗り出していた身をシートに戻し、今度は深く背を預けた。


ガラガラと地面を転がる車輪の音が、身体の芯から湧き上がって聞こえるようだ。
沈黙に包まれる馬車の中で振動に身を任せていると、今日一日の疲れが全身に深く浸透していくようだった。
向かい側に座る二人は、先ほどから視線を交わすことなく、そっぽを向いたままだ。


そんな二人を横目に、ライアンは襲いくる睡魔に意識を委ねようとした。
その前にもう一度、主君でもあるセドリックを気にして、彼に視線を向ける。


彼は窓枠を支えに頬杖をつき、その手で口元を覆っている。
わずかに見えるその口角が、どこか満足気に上がっているのを見止めて、ライアンはやはり、不可解な気分を拭えなかった。