碧眼の王太子は騎士団長の娘に恋い焦がれる

彼女が複雑な気分で、不機嫌を抑え込もうとしている様子が、ライアンにははっきりと伝わってくる。


セドリックもその気配を察したのか、ゆっくりアデルに顔を向けた。
そして「あれ?」と眉を寄せる。


「アデル。首筋、赤くなってる。虫にでも刺された?」

「え?」


突然話題が変わったせいか、アデルが素の表情で反応を返す。
「ここんとこ」と、セドリックが自分の首筋を指で突いて示すのを見て、彼女は自分のそこに手を当てた。


「そ、そう? 気付かなかった」

「痕が残るといけない。城に戻ったら、薬師に言っておくよ。薬を調合させよう」

「……ありがとう」


セドリックがいつもと変わらず飄々としているせいか、アデルも毒気を抜かれたようで、声から棘が消えた。
アデルはそれきり黙り込み、セドリックとは逆側の窓の外に視線を走らせる。
お互いの姿を視界から遮断するように、外を向く二人と向かい合い、ライアンは無意識に首を傾げていた。


セドリックは、『仮面の姫君』を本気で恋慕っていた。
だからこそ、アデルが言った通り、ライアンもセドリックはあっさりしすぎだと思っていた。


(見込みがないって判断ついたってだけで、そんな簡単に諦められるのか……?)