碧眼の王太子は騎士団長の娘に恋い焦がれる

ライアンに対するセドリックの返事は、想像以上に飄々としたものだった。


「さようならって言ってきたよ」

「え?」


聞き返すライアンの視界の端で、アデルが目を背けるのがわかる。


「だから、『さようなら』って。僕の求婚は、受け入れてもらえなかったから」


聞き返されたセドリックは、更に詳しくライアンに説明をする。


「まあ、仕方ないよ」


そんな一言で、セドリックは肩を竦める。
ライアンは面食らい、『そうか』と相槌を打つ以外ない。


黙り込むライアンに代わって、アデルが素っ気ない声で訊ねた。


「……セディの『恋焦がれる』って、そんなもんだったの?」


質問する彼女に、セドリックが「え?」と横目を向ける。


「ちょっと前まで、私たちの前で『恋煩い』なんて言ってたくせに。……結構あっさり諦めるんだね」


アデルの言葉は、ライアンが聞いても棘があると感じた。
しかし言われたセドリックは気にする様子もなく、アデルから目を逸らして再び窓の外に視線を向ける。


「僕は王太子だからね。見込みなしと判断がついたものに、いつまでも執着してる暇はない。どこの誰かもわからない以上、正式な求婚もできないし……ただ、それだけだよ」

「……そう」


それを聞いて、アデルはわずかに頬を朱に染めて、プイッと顔を背けた。