碧眼の王太子は騎士団長の娘に恋い焦がれる

森を抜ける間、車内では誰も口を開こうとしなかった。
ライアンはセドリックを探っていて、セドリックはずっと窓の外を見遣っている。
アデルはセドリックの隣で身を縮め、膝の上で握りしめた手を見つめていた。


森を抜けたのか、地面を転がる車輪の音が変化した。
馬車の速度が上がったのを感じた時、セドリックがわずかに口角を上げて、ふっと小さな声を漏らして笑った。


「ライアン。いつまで探ってるの?」

「え?」


視線を外に流したまま、ライアンはセドリックにそう問われた。


「今夜僕が、あの姫君とどんな会話をしたのか、聞きたいんじゃないのか?」


チラリと向けられる蒼い瞳に、ライアンはギクッと肩を強張らせる。
顔を伏せたままのアデルの反応も、ライアンとほとんど変わりはなかった。


「セディ? ええっと……」


取り繕おうとして、ライアンは頬の筋肉を引き攣らせながら、それでもなんとか笑ってみせる。
乾いた笑い声に導かれるように、アデルも顔を上げた。


「セディ、またお兄様とお忍びで遊んでたの?」


アデルなりに、いつもの空気を装うとしたのだろう。
セドリックは、咎めるようなアデルに顔を向けた。
そして、ふふっと軽く声を漏らして笑う。


「言っとくけど、今日のはライアンから誘ってきたんだ。アデル。僕は、あの仮面の姫君と再会できたんだよ」

「へ、へえ~?」