アデルはライアンの仮面に感謝しながら、レディらしくドレスの裾を持ち上げ、セドリックに深々と頭を下げた。
背を起こしても、顔を真っすぐセドリックに向けることはできない。


アデルは俯いたまま、セドリックの横を通り過ぎ、バラの温室から飛び出そうとした。
しかし。


「待って」


通り過ぎ際で、セドリックがアデルの肘をグッと掴んだ。
思わず振り返るアデルに、セドリックは大きく一歩踏み出して距離を詰める。


「名前は聞かない。顔も知らなくていい。……だけど。最後にもう一度だけ……」


セドリックは目を伏せ、どこか急いたように早口でそう言った。
一度言葉を切り、仮面から覗いて見えるアデルの瞳を、ジッと見つめる。


「口付けを許してください」

「え……?」


短い声で聞き返したアデルに、セドリックの返事はなかった。
彼はアデルを強く引き寄せ、覆い被さるように顔を近付けた。


アデルは仮面の下で大きく目を見開いた。
キラッと輝くエメラルド色の瞳に、セドリックが目を伏せるのが映る。
彼の蒼い瞳は、長い睫毛で隠されてしまう。


息をのむ間もなく、アデルの唇はセドリックに吸い上げられていた。
初めての時と同じように、セドリックは何度か彼女の唇を啄む。