「そういう意味じゃ」と言いかけて、アデルは声をのみ込んだ。
自分の言葉のどこかで、勘のいいセドリックは感じ取ってしまったのかもしれない。


それならば、わざわざ否定することはない。
セドリックの求婚を断るのが、アデルの目的だ。
はっきりと言葉にするだけが手段ではない。
彼がアデルの心を汲んでくれたのなら、それでもいいのだから。


アデルはセドリックの視線から逃げるように、その場にそっとしゃがみ込んだ。
ドレスの裾が土で汚れるのも気にせず、目の前で咲き誇る真紅のバラの花弁を指で突つく。


「マントは城にお届けできるよう、なんとか方法を考えますね。城の出入りの行商人に頼むとか、市場を巡回する騎士団の方に託すとか。……考えてみれば、返すのは不可能ではありませんでした」


赤くしなやかな花弁を一心に見つめ、アデルは明るく張った声で話を逸らした。


「姫」

「あ、後は、その……あの時、私を騎士団に引き渡さないでくださって、ありがとう」

「……姫」

「そ、それから……」


この姿でセドリックに会うのは、これが最後。
自分に何度もそう言い聞かせていたせいか、アデルは静かに焦り始めていた。


借りたままのマントを返す方法も思いついたし、求婚の返事も伝わっている。
だからこれで、アデルの役目は終わったはずだった。