僕は何度も、自分の耳を疑った。
そんなはずはない。
でも確かにそう聞こえた。

「副﨑、今なんて……」
「先生のことが、好きなんです。ずっと前から。突然こんなこと言ったら迷惑になるなんて分かっています。だけど私、我慢できないんです。今のままじゃ嫌なんです。もっと貴方に私を見てもらいたい。貴方の傍にずっといたい。貴方にとって特別な存在になりたい。それだけ貴方が、大好きなんです……」

氾濫したかのように、思いの丈を僕にぶつけてくる副﨑。
ずっと前から好きだったって、いつからなんだろう。
いや、そんなことは今関係ない。
副崎は僕のことが好き。
信じられないが、彼女は紛れもなくそう告白した。
冗談ではない、本気なんだ。

『彼女の言葉には、きちんと向き合ってあげて下さいね』

呉葉の言葉が頭に浮かぶ。
そうだ、告げられてしまったからには、きちんと副崎の言葉に向き合ってあげなければ……。

「ごめん……。君の気持ちには応えられない」

僕は副崎の顔から視線を逸らす。
これは至極当然の答えだ。
僕は教師で、副崎は生徒。
しかも彼女は生徒会長な上に、僕は生徒会顧問でもある。
好きかどうか以前に、親密な関係になることは許されない。

「それは私が生徒で、久田先生が教師だからですか?」

僕は目だけを動かして副崎の顔色を覗う。
彼女は表情を変えずに、僕をじっと見つめている。

「……そうだよ。君が僕に好意を抱いてくれるのは、素直に嬉しい。でもその気持ちがどれだけ強くても、僕は教師で君は生徒。だから君の気持ちに応えるわけにはいかないんだよ」
「だったら、もし私と貴方がそういう関係じゃなったら、私を受け入れてくれますか?」
「それは……」

僕は言葉に詰まる。

何をしているんだ。
何故真っ先に断らないんだ。

脳裏にその理由が浮かんでいたが、僕は引き千切れそうなくらいの強さで舌を噛んでそれを打ち消す。

「ごめんなさい、こんなことを言って。だけど私、納得できないんです。さっきの理由だけで断れられるのは。一度でいいから、私を一人の女性として見てもらえませんか? それでも駄目だって言われたら、私は潔く諦めます。だから……」

副崎は全く表情を崩さない。
僕は彼女の気迫に押され、これ以上何かを言い返すことが出来なかった。

公園にある一つの電灯が、寂しそうに足元を照らし始める。
その光に多くの虫達がこぞって寄っていった。