最初の方に比べたら、大分緊張も解けてきただろうか。
ひとまずこうして公園を歩いている間は、普段通りに振る舞えていると思う。

昨日の私の発言には、自分でも驚いた。
まさか水族館に連れて行ってくださいなんて言い出すとは。
これまでだったら絶対に言えなかったし、一体どうしてしまったのだろうか……。
でも改めて考えたら、先生もよく断らなかったと思う。
今日の出来事がもし誰かに知られでもすれば間違いなく大問題になる。
しかしそんなことはどうでも良くなるくらい、今の私は嬉しい気持ちで満たされていた。
だって、こうやって好きな人と二人きりで、休日に出かけられているのだから。

一度も来たことがなかった水族館。
本当はお父さんとお母さんの家族三人で来たかったけれど、お母さんはもうこの世にはいない。
私の願いは叶わない。
それでも、初めて来た水族館が久田先生と一緒で、好きな人と一緒で良かった。
これで、引きずっていた気持ちを吹っ切ることができそうだ。

「今日はとても楽しかったです。先生と来ることが出来て、自分の気持ちにもけじめを付けることが出来て本当に良かった……」

私は後ろを振り返り、そう久田先生に言った。
先生は眩しそうに目を瞑っている。
気が付くと私の立っている位置は、沈みゆく夕陽と重なっていた。
再び先生の顔を見ると、まだ眩しそうにしている。

もう、ちゃんと私を見て下さい。

やっぱり私は、久田先生が好き。
教師と生徒という関係なんて、どうだっていい。先生とずっと一緒にいたい。
これからも二人でたくさんの場所に行きたい。もっともっと先生に近づきたい。

「ねえ、先生……」

私は、先生の『特別』になりたい。

胸の奥が熱くなって、喉元から何かが湧き上がってくる。
せき止めようとすると、苦しくて息ができなくなる。
我慢できない。
私は、留めることの出来なくなった何かを、静かに吐き出した。

「好きです」

周辺の木々が大きく騒めく。
私はそれに全く気が付かなかった――。