昼になり、僕らは昼食を食べながらイルカショーを見ることにした。
この水族館は東館と西館の二つの大きな建物に分かれており、イルカショーは東館の屋上で行われる。
僕らは午前中東館を一通り回り、残すはこのイルカショーのみとなっていた。
イルカショーはこの水族館の目玉イベントであり、始まる前から多くの人が集まっている。

「先生、ここの席が空いていますよ」

副崎が空席を見つけて僕を案内する。
会場で買った昼食を持って、僕らは席に腰掛ける。

「初めて見るイルカショー、すごく楽しみです!」
「僕も。テレビで見たことはあるけど、こうやって本物を見るのは初めてだよ」
「へえ、そうなんですか。じゃあ二人ともおんなじですね」

あどけなさ一杯に笑う副﨑。
この笑顔を見ると、昨日彼女が泣いていたことが嘘のように思えてくる。
普段学校で見ている副崎の姿の戻ったような気がして、僕は安堵する。

「あ、始まりますよ」

場内にアナウンスが響くと同時に、インストラクターの人が三匹のイルカを連れて入場して来る。
イルカ達は挨拶代わりに、上空に吊るされたボールめがけて高々とジャンプをする。

「わあ、すごいすごい! 今、飛びましたよイルカ達! 見ました先生⁉」

イルカのジャンプを見てはしゃぎ出す副崎。
私服でこうしている彼女を見ていると、どうしても一人の女性として意識しそうになる。
顔立ちは整っているし、明るい性格で一緒にいて退屈しない。
学校の男子からも人気は高いだろう。
そんな子と二人で水族館に来るなんて、男としては意識せずにはいられない……。

いやいや、何を考えているんだ僕は。
今日は教師として、生徒である副﨑に少しでも元気になってもらうためにここに来たんだ。
変なことを考えてはいけない。

もう、誰も悲しませてはいけないんだ……。