「落ち着いたかい?」

副崎の涙が収まったところで、彼女の背中から手を放す。

「はい。ありがとうございます、私が一方的に話すのを聞いてもらって。それに……」
「それに?」
「私と一緒にいてくれて……」
「あ……」

赤いアネモネのように染める副崎の頬。
僕の心臓が、一つ大きな鼓動を打った。

「い、いいよいいよ、気にしないで」

僕はすぐさま視線を外に向ける。

「先生」
「な、何?」

動揺を隠せないまま副崎の方を振り返ると、彼女は優しく笑っている。
そして僕にこう言った。

「もう一つだけ、お願いしてもいいですか?」

夕陽は完全に沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。