「続きまして、生徒代表からの挨拶」

入学式が進み、副崎の話す番が回ってきた。
本人は大丈夫と言っていたけれど、やっぱり怖いな……。
それに失敗したら僕のせいにするとか言っていたし、それは勘弁してほしい。

「上級生代表、副﨑美奈」
「はい」

名前を呼ばれた副﨑は壇上に上がり、深々と頭を下げる。
そしてマイクの高さを調整し、静かに話し始めた。

「晴れ渡る空に、満開の桜が一層引き立つ今日、皆さんはここ、全田西高校での入学式を迎えられました」

話し始めた副崎を見て、僕は目を疑う。
数分前まであんなに動揺していた姿が嘘のように、前を向き、威風堂々と話している。
彼女の一言一言に、新入生への想いが込められており、力強く胸に響く。
これが彼女の本当の姿。
あまりの気高さに、僕は思わず見入ってしまう。

副崎は最後まで崩れることなく、生徒代表の挨拶を終える。
壇上を降りている間も目を離せないでいると、ふとこちらを向いた彼女と目が合ってしまった。

(しまった……)

狼狽える僕とは対照的に、副崎は柔和な微笑みを浮かべて会釈をする。
本当に先程会った女の子と同じ子なのだろうかと、再び疑ってしまう。

「久田先生、行かなくていいんですか?」

耳元で誰かが囁く。

「へ?」

声の主は隣にいた山川先生だった。

「ほら、担任発表が始まりますよ。久田先生も副担任なんだから、壇上に上がらないと」
そうだ、生徒代表の挨拶の後は担任発表だった。
副崎に気を取られて、僕はすっかり忘れていた。

「す、すみません。今行きます」

僕は小走りで壇上に上がる。
山川先生のおかげで、なんとか恥ずかしい事態になることは免れた。