「はっ……」

起きた僕の目には、自分の部屋の天井が映っていた。

「はあ……はあ……はあ……夢?」

首筋にかいていた汗の臭いが、不快感を漂わせる。
疲れているのか自分の身体が重く、まるで鉛になってしまったかのようだ。

激しい蝉の鳴き声の中、布団から出た僕は冷蔵庫を開け、牛乳を取り出す。
それを持っていたコップに注ぎ、一気に飲み干した。

「呉葉……」

竹下呉葉。
それが、夢に出てきた女子生徒の名前。
僕が非常勤講師として勤めていた学校に通っていた子だ。
明るくて真面目だが茶目っ気もあり、どことなく副崎と似ている。
人当たりが良くて友達も多く、僕もよく放課後に話していた。
けれど……。

空になったコップを水に浮かべ、僕はシャワーを浴びることにした。



温度調整の上手くいかないシャワーが僕の身体を濡らす。
呉葉のことについて、僕をもう少し思い出す。
彼女は僕が配属された時二年生だったので、今年の春から大学生をしているはずだ。
どこの大学に行ったかは知らない。
本人はこの辺の大学に行きたいと言っていたが、最終的な結果を聞くことなく、こちらの方に越してきてしまった。

「あの後、どうなったんだろうな」

僕はシャワーを止め、首を横に振って水を除ける。

やめよう、過去のことを思い出すのは。思い出したところで、何も変わらないのだから。 

蓮口から滴る水滴が鬱陶しく、僕は力強く栓を閉めた。