正直、こうなるなんて思っていなかった。
まさか久田先生と一つの教室で二人きりになるなんて。

教えてほしいところがあるからと、私の方から呼び出した。
分からないところがあったのは本当だし、その授業を担当している久田先生に質問するのが一番良いと思った。
だからお願いした。
何もおかしくはない……はずだ。

でも……

実は分からないところを口実に、久田先生と一緒にいたかった――。

いやいやいや、そんなはずはない。
ちゃんと分からないところを教わりに来たんだ。

私は自分に言い聞かせる。
しかしどちらにせよ、この状況は緊張せずにはいられない。
好きな人と一つの部屋で二人きりになる。
生徒会の男子メンバーと二人で生徒会室にいたことはあるし、優君と二人で下校することもあるけれど、それとは心の持ちようが全然違う。

なんだろう……。心臓が強く鼓動して、今にもはちきれてしまいそう。
胸の奥が焼けるように熱く、呼吸が上手にできずにとっても苦しい。
さっきからずっと久田先生が話してくれているのに、何も頭に入ってこない。

好きな人と二人きりって、こんな気持ちになるんだ……。
これから先生に会う度にこれでは流石に耐えられない。
自然に振る舞えるようにならなきゃ……。

でもこの胸の高鳴りは、どうしたら止められるの……?

「分かったか、副﨑」
「分かんないです……」
「え、分かんない?」
「はい……。 へ?」

目の前で、久田先生がこちらを見つめている。

「さっきの説明、分かりにくかったかな?」
「あ……」

先生の困惑した表情を見て、私はやってしまったと思った。
分からなかったかどうか以前に、先生が何を言っていたのか聞いてすらいなかった。

「ごめんなさい、聞いていませんでした……」

私は素直に答えるしかない。

「え?」
「考え事していて……。本当にごめんなさい」

私は頭を下げて久田先生に謝る。
自分から質問があると時間をとらせておいて、聞いていなかったなんてあまりに失礼だ。

先生の顔を見ることができない。
きっと怒っているだろう。
もしかしたら、嫌われてしまうかもしれない。
私は心の中で覚悟する。