よく考えると、副崎と二人だけで生徒会室というのは初めてな気がする。
だがそれ以前に、男性教師と女子生徒が一つの教室で二人きりというのはよろしいことではない。
まあ今の時代、男性同士、女性同士で二人きりってのも危ない場合があるけど。

そう考えると何となく緊張してきてしまった。
もしや副崎も意識しているのか、先程から何もしゃべらない。

「ひ、ひとまず、窓でも開けようか」
「ああ、はい、そうですね」

カーテンを全開にし、部屋の窓を開ける。
女子生徒とやむを得ない事情で教室に二人きりになった時は、男性教師は必ずこうしなければならない。
外からの監視と共に、自分の身の潔白を証明するためだ。
教師も一人の男性なので何があるか分からない。
実際に前の学校では、猥褻行為を起こして問題になった教員もいた。

窓を開け終えると、少しだけ緊張が解ける。

「さあ、はじめようか」
「はい、お願いします」

副崎の方も多少は緊張が薄れたのか、表情が和らぐ。
僕らは普段生徒会メンバーが使う机に腰掛け、勉強を始めた。

「それで、どこが聞きたいの?」
「えっと、ここのページなんですけど……」

教材を開こうとする副崎。
その時僕は誰かの視線を感じ、外に目を向ける。

「ん?」
「先生、どうかしましたか?」

確認してみたが、誰かがこちらを見ているという様子はない。
考査週間といっても、大会や発表会の近い部活動は学校から許可を取って活動しているから、外にいる生徒は少なくない。
カーテンが空いているから外からも様子は分かるし、偶々通りがかった生徒がこちらを見たのだろう。

「いや、何でもない。続けようか」

梅雨のじめじめとした暑さが際立つ、そんな一日だった。