「ところで久田先生、今お付き合いしている人とかはいるの?」
「え?」
「唐突にごめんなさいね」

本当に唐突だな。思わずおかしなところから声が出てしまった。

「私こういう話が好きで、初めて会った先生にはどうしても聞きたいと思ってしまうの」

気持ちは分かる。
だとしてもここで聞いてくるとは……。
まあ早かれ遅かれこういうことは聞かれるものだし、別に嫌というわけでもないけど。

「“今は”いないです」
「今は?」
「え、ええ……」

まずい。
つい癖で“今は”を入れてしまった。
恋人がいないというのは本当だけれど、過去に付き合ったことが無いわけではない。
だから女性経験がないと思われるのがなんとなく癪に触り、いつもこう言ってしまうのだ。
気にしない人は受け流してくれるが、こういう話が好きな人の場合、大抵……

「以前は恋人がいたってことよね。いつ? どのくらいの期間?」

予想通り。
逃さずに突っ込んでくる。

「えっと……、高校、大学で一人ずつです。大学の子とは、お互い社会人になる時に別れました。あとは……」
「あとは?」

山川先生の目は、女子高生が恋バナをする時と同じような輝きを放っている。

「ま、まあこんなところですかね」

山川先生の眼差しに少したじろぎながら僕は答える。同時に、クラスタイムの終わりを告げるチャイムが鳴った。

「あら、そろそろ体育館に行かなくてはいけないわね。久田先生、またお話聞かせて下さいね。ふふふ」
「は、はい……」

ひとまず難を逃れたと心の中でほっとしながら一旦職員室に戻り、僕は体育館に向かう。