朝の職員会議も終わり、僕はグラウンドに出る。
既に生徒会のメンバーが集まっており、今日の流れについて確認していた。

「おはよう」
「あ、おはようございます」

元気に挨拶を返す生徒会のメンバー。
しかしよく見ると、副崎だけが見当たらない。

「あれ、副崎はどうした?」
「あ、先輩ならあそこです」

書記の斎藤が指さす方を見ると、副崎が頭を抱えて何か呟いていた。
その姿は、僕が入学式の日に初めて話しかけた時とほとんど一緒だ。

「あいつ、こういうことがある度にああなるのか?」
「大抵はそうです。二年間一緒にやっていますけど、会長になる前からあんな感じです」

答えてくれたのは、副会長で副崎の同級生でもある石動仁だ。

「はあ……、なるほどね」
「ま、それでなんだかんだできてしまうから、何とも言えないですけど」

呆れ顔になりながら石動は言う。
ただしそこに焦りの色は見られない。

二ヵ月弱生徒会を見てきたが、副崎は林先生も言っていた通り、外から見て疑いたくなる程生徒会メンバーに信頼されている。
普通本番前にあれだけ自分の世界に入られたら、周りは不安になるだろう。
だが今の石動の様子を見ても分かるように、全く不安がる様子はない。
寧ろこれが日常といった感じで各々動いている。
副崎とこれまで接してきたからだとは思うが、高校生でここまでの信頼関係が築けるのは簡単ではない。
そう感心しながら生徒達を見ていると、一人の先生がグラウンドへとやってきた。

「久田先生」
「あ、山内先生」

山内茂治先生。
体育科の先生でバスケ部の顧問を務めている。
年齢は四〇代後半で、もうすぐ五〇歳を迎えるそうだ。
普段から強面の先生だが、部活での指導の時にその威厳はさらに増大し、生徒からは“番長”だとか“大魔神”だとか多数の呼び名がつけられ恐れられている。
しかし実際には生徒思いで情け深いところもあり、信頼している生徒も多い。

「今日は、よろしくお願いします」

僕は内心怯えながら挨拶する。
球技大会では試合の審判やグラウンド作り等、多数の部活に協力を仰いでいる。
そのため当日や前日は体育科の先生にも手伝ってもらう。

「はい。こちらこそよろしく。まあ生徒会のメンバーもしっかりしていますし、何とかなるでしょう。怪我人だけには気を付けて進めていきましょう」
「はい」

朝のSTを終えて着替えた生徒達が、グラウンドに集まり整列を始める。
僕らは開会式に備え所定の位置に立つ。

今日は気温が高く、僕の首筋には既に多量の汗が光っていた。