職員室へ入ると、副崎は一人の先生のところに寄っていく。
どうやら、冊子を縛るためのビニール紐が欲しかったようだ。

「ビニール紐ね。ちょっと待ってて」

林明美(はやしあけみ)先生。
二年六組の副担任を務めている国語担当の女性だ。
持っている学年も教科も異なるのでまだ挨拶くらいしか交わしたことはないが、優しそうな人だ。
聞くところによると、今学期中のどこかで産休に入るらしい。

「はい、これを使って」

林先生は自分の机の引き出しからビニール紐を取り出すと、副崎の持っていた冊子の上に置いた。

「ありがとうございます」

ビニール紐を受け取った副崎は、空いている机で冊子をまとめる。
僕も近くの空いている机に冊子を置き、縛るのは副﨑に任せる。

「すみません久田先生。ここまで運ぶのを手伝ってもらったみたいで。捨てる冊子なので縛ってまとめないといけなかったんですが、ちょうど生徒会室にあるのが切れていまして」 

申し訳なさそうな顔で林先生は僕に言う。

「なるほど。偶々階段の近くを通りかかった時に、副崎が一人でこの量を運ぼうとしていて。流石に危ないと思ったんです」
「そうでしたか……。わざわざすみません」
「いえいえ、気にしないでください。でも彼女、よくあの量を一人で運ぼうとしましたね」
「きっと、誰もまだ生徒会室にいなかったんでしょうね。それで一人でもできるだろうと感じて、やったんだと思います。あの子は少し横着なところがありますから。本当は顧問の私がいればよかったんですけど……」
「確かに、そんな感じがありますね」

林先生は微笑ましさ心苦しさの混じったような笑いを浮かべ、副崎の方を見る。

「あ、また一人で持って行こうとしてる」
「僕が行きますよ。物を運ぶんだから男手の方がいいでしょうし」

立ち上がろうとする林先生を、左手で制する僕。

「すみません気を遣わしてしまって。よろしくお願いします」
「大丈夫ですよ」と笑顔で返し、僕は副崎を手伝いに行く。

「副﨑、僕も手伝うよ」
「へ?」

差し伸べられた僕の手を見て、驚いた表情を見せる副﨑。
一度こちらに目をやったが、すぐに逸らし俯いてしまう。

「じゃあ……、お願いします」
俯いた状態のまま、彼女は僕に冊子を渡す。

やはりさっきから様子がおかしい。
実はあの時怪我していたとかだろうか。
それとも階段での出来事を気にしているのか……。
色々と思考を巡らせつつも冊子を受け取り、二人で外にあるゴミ捨て場に持って行く。
副崎は僕の前をそそくさと歩いていくので、場所を知らない僕は付いていくのに必死だ。