この学校に赴任してきて二週間が経過した。
まだまだ慣れないことも多いが、各クラスの特徴も何となく掴め、僅かながらも手ごたえを感じている。
この調子で頑張ろうと思う。
そう自分を鼓舞しつつ日誌を書いていると、筆箱の中に赤のボールペンが見当たらないことに気づく。

「あれ、六限の教室においてきたのかな」

六限目、僕は三年三組で授業をしていた。
そこに忘れてきたのかもしれない。
急いで三組に向かい、教室の中を確認する僕。
すると黒板消しのクリーナーの横に、赤いボールペンが置かれているのが分かった。

「あ、これだ」

様子を見ていた生徒数人に小声で笑われ、恥ずかしくなった僕は逃げるように教室を出た。
職員室に戻る途中で、近くの階段から誰かが降りてくる足音が聞こえてきた。
ゆっくりと、慎重な足取り。
何か重いものでも運んでいるのだろうかと気になって見てみると、大量の冊子を一人で運ぶ副崎の姿があった。
重そうに持っているというより、高く積まれた冊子が散らばらないようにするのに精一杯という様子だ。
これはいけないと慌てて駆け寄ろうとした次の瞬間、彼女は足を滑らせたのか、バランスを崩してしまう。

「副﨑!」