「ごめんなさい久田先生。急に取り込んじゃって」

戻ってきた山川先生は僕に一言謝り、再びコーヒーカップを手に取る。

「いえいえ、気にしないでください」
「それにしても久田先生って、もう副崎さんと仲良くなったのね。凄いわ」
「え? そうですかね……」

あれは仲が良いと言えるのでしょうか。
舐められているだけのような気がするけど。

「あの子は本当に頼りになるわ。一年生の頃から見ているけど、真面目で他の子からも慕われているようだし。今みたいに頼み事もきっちりこなしてくれるわ」
「は、はあ……。僕は今普通に揶揄われたんですけど……」
「若いから接しやすいのよきっと。久田先生は他の女子生徒からも人気が出そうね」

山川先生は僕ににっこりと微笑む。おそらく他意は全くなく、純粋にそう思ってくれているのだろう。
僕はどこか複雑な気持ちになる。

「そんなことないですよ」
「そうかしら。前の学校ではどうだったの?」
「え……」

僕は言葉に詰まる。
山川先生のこの一言が、僕の胸の奥を一瞬掠めた。

「全くですよ。そもそも女子生徒とそんなに話しませんでしたし」

自分の顔を隠すように、僕はコーヒーを一気に飲み干す。

「あらそう……」

山川先生は残念そうな顔で、コーヒーカップの表面を見つめる。

「で、では僕は戻りますね。コーヒー、御馳走様でした」

僕はカップを片付け、気持ち駆け足でこの後の仕事に取り掛かった。



爽やかに吹く風に、絡みつくように多量の黄砂が舞っていた。