「えっと、久田先生だったかな?」
「え? あっ、はい」

頭を上げた副崎の父親から声をかけられ、僕は恐縮しながら返事をする。

「美奈がいつもお世話になっております」
「い……いえ、そ、そんなことは……」

緊張しすぎて呂律が回らない。
何が言いたいのか、自分でも理解出来なくなる。

「ふむ、美奈はこういう男性が好みなのか」
「へ?」
「ちょっとお父さん、何言ってるの!」

副崎が恥ずかしそうに喚く中、副崎の父親は僕を凝視して興味深そうに頷く。

「えっと……、あの……」
「ははは、そんなに怖がらなくていいじゃないか」

副崎の父親が笑う。
笑った顔は娘にそっくりだった。
やはり二人は親子である。

「久田先生」
「は、はい」
「美奈の気持ちをしっかりと受け止めてやってくれないかい? 当然どんな答えを出すかは君次第だし、これからも迷惑を掛けるかもしれないが、どうか逃げずに娘と向き合ってほしい。私からの心からのお願いだ」
 副崎の父親は、これまでで一番深々と頭を下げる。僕は一度深呼吸し、気を引き締める。
「はい、分かりました」

もう僕は逃げない。
教師として、一人の男として副崎と真っ直ぐに向き合おう。
そう真の覚悟を決めたのだった。

「ありがとう。なるほど私の娘が好きになった男だ。頼りにしているよ」

副崎の父親は僕の目を見て言う。
その後副崎の前に立ち、彼女と同じくらいの目の高さに合わせて屈んだ。

「美奈、いいかい。改めて言うが、君がしていることは、世間では認めてくれる人が少ない。学校に戻れば、また周りから何か言われるかもしれない。だがそれでも自分の気持ちを曲げたくないのであれば、自らの行動で他人を認めさせなさい。残りの会長としての活動も、これからの勉強も、今までよりも一層力を入れて努力するんだ。そうして結果を出していれば、きっと周りの人も認めてくれるだろう。悩んだり困ったりした時は、お父さんに頼ればいい。私はいつだって、お前の味方だ」
「分かった。ありがとうお父さん」

副崎がいつものあどけなさを全面に押し出した笑顔を見せると、父親も同じ表情を浮かべた。
二人の間にあった溝は、跡形も無く消え去っていた。