「いいわねえ、誰かに恋をして想いを告げて。まさに青春よね。それに今の時期は、純粋に誰かのことを好きになれる。大人になってくるとどうしても、お金のことだったり将来のことだったり色々と考えてしまう。単純にその人を好きかどうかで恋愛ができるのは、今の内だけ。美しくて、眩しいくらいに輝いている。だから私、若い人の恋愛が好きなのよ」
「は、はあ……」

言いたいことは何となく分かるが、どうして今そんな話をするのか僕にはいまいちピンと来ない。

「ねえ久田先生」
「は、はい」

山川先生はこちらを向く。
コーヒーカップを置く音が、静かに鳴った。

「副崎さんに返事はしたの?」
「それは……」
「まだしていないのであれば、きちんと返事をしなさい。高校生にとって誰かに告白するなんて、一世一代の出来事だもの。それを有耶無耶なまま終わらせては駄目」

一人の生徒に言い聞かせるかのように、山川先生は僕に話す。

「ですけど、僕にはもう……」

分かっている。
そんなことは自分でも理解している。
しかしこうした事態になってしまっては、副崎に返事をしたくてもどうにかしようがない。
僕には、ここでじっと座っていることしか出来ないのだから。

「そうねえ……」

山川先生が会議室の時計に目を向ける。